退職月で決まる、一括徴収と普通徴収の分岐
退職したときに残っている住民税を、会社がまとめて天引きするのか、自分で納付書で払うのか。 これは会社の方針でも、地域ごとの慣習でもなく、 地方税法第321条の5第2項が全国共通で決めています。 ここではその条文の原文と、読み方を示します。
出典確認日 2026-08-12
まず原則 — 退職した月の翌月以降は、会社に徴収義務が無い
前項の特別徴収義務者は、前条の規定によりその者が徴収すべき給与所得に係る 特別徴収税額に係る個人の市町村民税の納税義務者が当該特別徴収義務者から 給与の支払を受けないこととなつた場合には、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額(略)は、これを徴収して 納入する義務を負わない。
地方税法 第321条の5第2項 本文
読み方はこうです。会社が住民税を給与から天引きする義務は、退職した月の翌月以降の分については無くなります。 裏を返せば、退職した月の分までは、これまでどおり天引きされるのが原則です。 そして義務が無くなった残りの分は、 市区町村が本人に直接請求する普通徴収へ切り替わります。
そして例外 — ただし書きが2つの場合を指定している
ただし、その事由が当該年度の初日の属する年の六月一日から十二月三十一日までの間において発生し、かつ、 総務省令で定めるところによりその事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額を 特別徴収の方法によつて徴収されたい旨の納税義務者からの申出があつた場合及びその事由がその年の翌年の一月一日から四月三十日までの間において発生した場合には、当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で 当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り、その者に支払われるべき給与又は退職手当等の支払をする際、 当該月割額の全額(略)を徴収し、その徴収した月の翌月十日までに、 これを当該市町村に納入しなければならない。
地方税法 第321条の5第2項 ただし書き/e-Gov法令検索(2026-08-12 取得)
長い一文ですが、分解すると3つの条件しかありません。
- 6月1日〜12月31日の退職で、本人からの申し出があったとき → まとめて天引きする
- 翌年1月1日〜4月30日の退職のとき → (申し出は要件になっていない)まとめて天引きする
- ただし①②いずれも、5月31日までに支払われる給与・退職手当等が 残りの全額を超えるときに限る
②に「申出」の語が掛かっていないことが、この条文の要点です。1月から4月に辞めた人は、選択できません。藤沢市の案内も「納税義務者本人からの申し出がなくても、5月31日までの間に 支払いをする給与又は退職手当等から一括して特別徴収しなければなりません」 と書いています。
3つの区分
| 退職した月 | 残りの扱い | 本人の申し出 | 条文上の位置 |
|---|---|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 原則は普通徴収。申し出れば一括徴収も選べる | 必要(申し出て初めて一括になる) | ただし書き 前段 |
| 1月1日〜4月30日 | 一括徴収(申し出が無くてもまとめて天引き) | 不要(法律上の義務) | ただし書き 後段 |
| 5月1日〜5月31日 | その年度の最終月。まとめて引かれる残りは無い | — | 第1項(徴収は「翌年五月まで」) |
5月の退職については、さいたま市が 「最終月分として特別徴収により納入していただきます」と案内しています。 5月分がその年度の12回目にあたるため、残りが発生しないという整理です。
一括徴収されるとき、実際にいくら引かれるのか
引かれるのは残っている月割額の全額です。金額そのものは 前年の所得と自治体の条例によるため、このサイトでは計算しません。 ただし何回分が残っているかは退職月から確定できます。 トップページの判定で確認できます。
| 退職月 | 残る回数 | 残る月 |
|---|---|---|
| 6月 | 11 回分 | 7月分〜翌年5月分 |
| 7月 | 10 回分 | 8月分〜翌年5月分 |
| 8月 | 9 回分 | 9月分〜翌年5月分 |
| 9月 | 8 回分 | 10月分〜翌年5月分 |
| 10月 | 7 回分 | 11月分〜翌年5月分 |
| 11月 | 6 回分 | 12月分〜翌年5月分 |
| 12月 | 5 回分 | 1月分〜5月分 |
| 1月 | 4 回分 | 2月分〜5月分 |
| 2月 | 3 回分 | 3月分〜5月分 |
| 3月 | 2 回分 | 4月分〜5月分 |
| 4月 | 1 回分 | 5月分 |
| 5月 | 0 回分 | (残りなし) |
実務では、退職した月の分と一括徴収される分が、最後の給与から まとめて引かれる形になることが多くなります。 たとえば3月退職なら、3月分・4月分・5月分の3回分が一度に引かれます。 実際に何月分まで引かれるかは給与の支払日と勤務先の給与計算の締めによって 前後するため、最後の給与明細でご確認ください。
足りないときは、普通徴収に切り替わる
条文の「当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り」という部分は、引くべき住民税より、支払われる給与・退職手当のほうが少ない場合には 一括徴収しないという意味です。 飯能市も「一括徴収をする金額が給与等の金額を超える場合には、 普通徴収への切り替え」と案内しています。 この場合、引ききれなかった分は納付書で自分で納めることになります。
死亡による退職は例外
飯能市の案内によれば、死亡による退職の場合は 「翌年1月以降であっても一括徴収をすることはできません。普通徴収への切り替え」 となります。1月〜4月であっても一括徴収の対象外という扱いです。
手続きは誰がするのか
市区町村への届け出をするのは会社です。地方税法第321条の5第3項は、 給与の支払を受けないこととなった納税義務者について、 特別徴収義務者(会社)が届出書を市町村長に提出しなければならない、と定めています。 これが実務でいう「給与所得者異動届出書」です。
本人がすべきことは、6月1日から12月31日に退職する場合に、 残りをまとめて天引きしてほしいか、納付書で自分で払いたいかを 勤務先に伝えることだけです。1月から4月の退職では選択の余地がないため、 伝えることもありません。